講演会・トーク

マリーズ・コンデへのオマージュ『Maryse Condé, une voix singulière』のビデオ上映と鼎談(人文社会系セミナー講演会)

講師 大辻 都(京都造形芸術大学)、管 啓次郎(明治大学) 司会 三浦信孝(中央大学名誉教授)

“イベント詳細”

2019-03-14(木) 18:00 - 20:30 参加登録
会場
日仏会館ホール
東京都渋谷区恵比寿3-9-25 渋谷区, 東京都 150-0013 Japan
日仏会館ホール
定員 130
参加費 無料
言語 日本語
主催 (公財)日仏会館
協力 アンスティチュ・フランセ日本
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マリーズ・コンデはグアドループ出身の黒人女性作家。長年コロンビア大学でフランコフォン文学を教えました。代表作は『セグー』『わたしはティチューバ』『生命の樹』などで、邦訳5点。2018年度ノーベル文学賞の代替賞を受賞した機会に、カリブ海とアフリカとフランスとアメリカを股にかけた彼女のユニークな人生と文学を振り返ります。ビデオフィルムを上映後、作家をよく知る大辻、管、三浦の鼎談形式で進めます。  

 

 

 

ドキュメンタリーフィルム『Maryse Condé, une voix singulière52分)*英語字幕のみ。日本語の解説を配布予定。

Directed by Jérôme Sesquin, Written by Françoise Vergès, 52 minutes, 2011 (in French, with English sub-titles).

 

 

日本語訳されたMaryse Condé の作品

『生命の樹 あるカリブの家系の物語』菅啓次郎訳、平凡社、1998年。

『わたしはティチューバ セイラムの黒人魔女』風呂本惇子・西井のぶ子訳、新水社、1998年。

『越境するクレオール マリーズ・コンデ講演集』三浦信孝編訳、岩波書店、2001年。

『心は泣いたり笑ったり マリーズ・コンデの少女時代』くぼたのぞみ訳、青土社、2002年。

『風の巻く丘』風呂本惇子・元木淳子・西井のぶ子訳、新水社、2008年。

 

 

日本語で書かれたMaryse Condéに関する著作

大辻都『渡りの文学 カリブ海のフランス語作家マリーズ・コンデを読む』法政大学出版局、2013年。

 

 大辻 都「異文化に生きてきた、作家の魔術、マリーズ・コンデさん」

(朝日新聞2018年10月31日夕刊に寄稿)

 審査関係者のセクハラ・スキャンダルにより発表が見送られたノーベル文学賞に代わり、今年かぎりの賞として設立されたニューアカデミー文学賞をカリブ海グアドループの作家、マリーズ・コンデが受賞した。
 時空間のダイナミックな広がりを特徴とする小説を中心に多くの著作を持ち、フランス語圏で広く読まれている作家である。何度か来日もしており、魔女裁判にかけられた実在の奴隷女性の生涯を虚構化した『わたしはティチューバ』、奴隷の子孫の年代記『生命の樹』など複数の邦訳がある。
 グアドループは17世紀にフランスの植民地となり、アフリカから連行した奴隷たちの労働により砂糖などの生産が行われていた島だ。コンデはこの島の黒人家庭に生まれ、1950年代に本国へ渡った。パリでの学生時代、カリブ出身の詩人エメ・セゼールが提唱した新しい世界観、ネグリチュードに触れ、その影響から自分の起源を求めてアフリカへと旅立つ。独立直後で混乱していたギニアなどで10年以上を過ごし、この時期抱いた文化的違和感を小説化して作家デビューを果たす。
 カリブ、フランス、アフリカと海を越え生きてきたコンデが次に向かった先はニューヨークだった。筆者がコンデと出会ったのは当時作家が教えていたコロンビア大のキャンパスだ。写真で知る顔に気づき声をかけると、通りすがりの外国人の私を心安く研究室に招き入れ、ゼミにまで参加させてくれた。その後作品を次々読むうち、異文化の複雑な交差のなかで生きてきたこの作家の視界の広さや自由さに魅(ひ)かれる気持ちが強くなり、気づけば研究対象としていたのである。
 大学退職後はパリに拠点を移し、作家活動を継続。「奴隷制の記憶委員会」委員長として当時のシラク大統領に働きかけ、2006年、カリブの人々念願の「奴隷制廃止記念日」制定も実現させた。80を超え病で手足が不自由になった近年は、南フランスのゴルドに暮らす。引退かと思われたが、翻訳者でもある夫リチャード・フィルコックスの口述筆記により、昨年長編小説『イヴァンとイヴァナの数奇で悲しい運命』(邦訳は未刊)を発表、読者を驚かせた。パリ近郊で起きたテロ事件を題材とし、自分に尊厳を持てずイスラム原理主義に走るカリブ移民の若者の悲劇を描いた力作だ。
 同じノーベル賞候補として注目されながら距離を取ろうとする村上春樹と対照的に、コンデは賞について問われるたび「受賞できたらうれしい」と前向きな関心を示しており、今回の代替賞で最終候補に残った時もその態度は変わらなかった。受賞後、各紙からのインタビューでは、喜びとともに「自分の支えになってきたグアドループの人々にこれを捧げたい」と何度も強調した。故郷の島から長く離れて生きてきた作家の特別な思いが感じられる。
 祝福のメールを送ると、すぐさまフィルコックス氏代筆による長い返事が送られてきた。そこには日本の読者への感謝に続き、1998年、初来日時に朗読した折の聴衆の印象が、昨日あったことのように詳細に記されていた。その身をどこに置いていても、遠い時間、遠い場所を一瞬にして我がもとへと呼び寄せる作家の魔術は健在だった。     
 
おおつじ・みやこ 1962年生まれ。京都造形芸術大学准教授(フランス語圏文学)。著書に『渡りの文学』など

 

 

 

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