高階秀爾(大原美術館館長)、 太田泰人(女子美術大学教授)、 高橋明也(三菱1号館美術館館長) 、 司会 三浦篤(東京大学教授) (第2部) 小林善彦(東京大学名誉教授 、安藤元雄(明治大学名誉教授、詩人)、椎名亮輔(同志社女子大学教授) 司会 鈴木康司(中央大学名誉教授)
ヨーロッパ近代文化の幕開けを告げる「ロマン主義」は、文学、美術、音楽など多様なジャンルにまたがる一大芸術運動です。「バロック」「ロココ」に続く本シンポジウムでは、19世紀前半のフランスを席巻したこの大きなうねりをテーマにします。ユゴーを始めとする文学では主に戯曲と詩を中心に据え、ドラクロワに代表される美術は絵画を主に取り上げますが、文学、美術ともにイギリスとの関係を無視することはできません。ベルリオーズが登場する音楽に関しては、特にドイツとのつながりを検討することになるでしょう。このように汎ヨーロッパ的な視野を保ちながら、フランス・ロマン派芸術の歴史的な意義と今でも色褪せない魅力を、優れた専門家の方々のお話しを通して明らかにしたいと思います。
プログラム
10:00〜10:10 趣旨説明
第1部 ロマン派の美術をめぐって
司会:三浦篤(東京大学教授)
10:10~11:00 高階秀爾 (大原美術館館長)
「壮大な地殻変動の時代―逃避願望か変革の夢か」
ロマン主義を性格づける特質のひとつに、現実を逃れて別の世界を求めるという願望がある。古代憧憬、異国趣味、自然愛好、楽園幻想などは、いずれも現実逃避の表れと見ることができる。その一方で、ロマン主義は、しばしば現状への反抗、革命への参加と結びついた。「現実逃避」と「現実参加」というこの一見相矛盾する性向のなかに、新しい時代への大きな歴史の変動を探る。
11:10~12:00 太田泰人 (女子美術大学教授)
「ジェリコーのふたつの旅: イタリア、イギリス」
テオドール・ジェリコーは、ナポレオン失脚後の時代にあって、劇的な英雄性と迫真の現実描写に基づく新しい絵画を創始、フランスにおけるロマン主義絵画の先駆者のひとりとなっていく。ジェリコーの芸術形成にとって1816-17年のイタリア旅行と1820-21年のイギリス旅行は重要な意味をもった。フランス絵画の新しい世代を象徴することとなったジェリコー芸術の形成を、イタリア、イギリスというふたつの異なる文化・社会環境との接触、交流の中で考える。
12:00~13:30 昼食休憩
13:30~14:20 高橋明也 (三菱1号館美術館館長)
「フランス・ロマン主義におけるドラクロワ」
第2部 詩・演劇と音楽の展開
司会:鈴木康司(中央大学名誉教授)
14:30~15:20 小林善彦 (東京大学名誉教授)
「ロマン派とシェイクスピア」
フランスのロマン主義は古典主義を批判し、それと対立するものとして現れた。演劇においてロマン派が確立したのは、ユゴーの『エルナニ』上演(1830)だといわれているが、それ以前の18世紀においては、古典主義に対抗するものは、フランスの作家よりもむしろシェイクスピアであった。しかし、この英国の天才もフランスに紹介されてから、軽蔑され、抵抗をうけた、その事情をたどってみる。
15:20~15:40 コーヒー・ブレイク
15:40~16:30 安藤元雄 (明治大学名誉教授、詩人)
「詩におけるロマン主義」
フランスの代表的なロマン主義者といえば、詩の場合、何といってもヴィクトル・ユゴーでしょうが、ネルヴァルやラマルティーヌも忘れがたくボードレールも少しはここにかかわります。しかし、そもそも詩におけるロマン主義とはいったい何だったのでしょうか。もしかしたら、詩そのものが、もともとロマン的な表現意欲の現われであり、その結果としてのロマン的な表現形態だったのではないでしょうか。フランスの場合、それはドイツやイギリスよりもやや遅れて、十九世紀という時代のほぼ全域を覆う市長となりました、大革命という動乱と、ナポレオンの出現のあとを受けて、フランスでは誰もがロマン派だった時代があったのです。
16:30~17:20 椎名亮輔 (同志社女子大学教授)
「『フランス・ロマン派』は存在するか」 (ピアノ演奏あり)
私達はロマン派音楽というとすぐにメンデルスゾーン、シューマン、ヴァーグナーなどを思い浮かべる。このようにロマン派音楽はドイツ音楽が代表するように見える。そして、フランス音楽にこそれに見合うだけの人材が存在しない。(ベルリオーズやアルカンをのぞいて)ことに戸惑いを覚える。現代から見る歴史の逆説である。当時のフランス音楽の現実を検討し、真の「ロマン派」音楽の意味を問うことは私たちの音楽観を是正するだろう。
17:20~18:00 質疑応答
終了後~ 懇親会